道生成空間の構造的特徴付けとシンプルな十分条件
本稿では、「すべての連続な道 (path) によって位相が決定される空間」として定義された道生成空間 (path-generated space) について、定義に立ち返らなくても直観的かつ構造的に判定できる「別の判定し易い特徴付け」と、実用上ほとんどの幾何学的空間を網羅する「シンプルな十分条件」について解説します。
数学的な定理や証明は厳密性を保つために「だ・である調」で記述し、背景や直観的な解説は「です・ます調」で記述します。
1. 別の判定し易い特徴付け:商空間としての構造
道生成空間の定義は「任意の連続な道 $\gamma: I \to X$ について引き戻し $\gamma^{-1}(A)$ が閉集合になるならば、$A$ は $X$ で閉集合である」というものでした。しかし、具体的な空間がこの条件を満たすか逐一チェックするのは大変です。
実は、圏論的な視点から見ると、道生成空間とは「無数の閉区間 $I$ を用意して、それらを曲げたり繋ぎ合わせたり(=商をとったり)してできる空間のすべて」に他なりません。これが最も判定し易い構造的な特徴付けになります。
定理 (商空間による特徴付け):
位相空間 $X$ が道生成空間であるための必要十分条件は、$X$ が閉区間 $I = [0,1]$ の族の直和空間からの商空間 (quotient space) として表せることである。
すなわち、ある添字集合 $\Lambda$ と、全射な商写像
$$p: \coprod_{\lambda \in \Lambda} I_\lambda \to X$$
が存在することである(ここで各 $I_\lambda$ は $I$ と同相な空間とする)。
($\implies$ の証明):
$X$ を道生成空間とする。$X$ へのすべての連続な道からなる集合を $\Lambda = \mathrm{Hom}_{\mathbf{Top}}(I, X)$ とする。各 $\gamma \in \Lambda$ に対して区間 $I_\gamma = I$ を用意し、その直和空間 $\tilde{X} = \coprod_{\gamma \in \Lambda} I_\gamma$ を考える。自然な評価写像 $p: \tilde{X} \to X$ を、各 $t \in I_\gamma$ に対して $p(t) = \gamma(t)$ と定める。
定値写像も道であるため、$p$ は全射 (surjective) である。
道生成空間の定義より、$X$ の部分集合 $U$ が開集合であることと、すべての $\gamma \in \Lambda$ について $\gamma^{-1}(U)$ が $I$ で開集合であることが同値である。直和空間 $\tilde{X}$ の開集合の定義から、これは $p^{-1}(U)$ が $\tilde{X}$ において開集合であることと同値である。全射連続写像 $p$ について「$U$ が開 $\iff$ $p^{-1}(U)$ が開」が成り立つことは、$p$ が商写像であることを意味する。ゆえに $X$ は $I$ の直和空間からの商空間である。
($\impliedby$ の証明):
逆に、$X$ が $p: \coprod_{\lambda \in \Lambda} I_\lambda \to X$ なる商写像を持つとする。$U \subset X$ について、すべての道 $\gamma: I \to X$ に対して $\gamma^{-1}(U)$ が開であると仮定し、$U$ が開集合であることを示す。
各 $\lambda \in \Lambda$ について、$p$ の $I_\lambda$ への制限 $p|_{I_\lambda}$ は $I$ から $X$ への連続な道である。仮定より、$(p|_{I_\lambda})^{-1}(U)$ は $I_\lambda$ において開集合である。これは直和空間において $p^{-1}(U)$ が開集合であることを意味する。
$p$ は商写像であるため、$p^{-1}(U)$ が開集合ならば $U$ は $X$ において開集合である。ゆえに $X$ は道生成空間である。
この定理により、「すでに道生成空間であることが分かっている空間たちを張り合わせて(商をとって)構成された空間は、自動的に道生成空間になる」という極めて強力な性質が得られます。後述する CW複体 が道生成空間になるのもこのためです。
2. 道生成空間にならない空間(反例による直観の補強)
十分条件を考える前に、「どのような空間が道生成空間から外れるのか」を知ることで、条件の必要性が直観的に理解できるようになります。
命題 (完全不連結空間と道生成空間):
空間 $X$ が完全不連結 (totally disconnected) であるとき、$X$ が道生成空間であるための必要十分条件は、$X$ が離散位相 (discrete topology) を持つことである。
例えば、カントール集合 (Cantor set) や 有理数の集合 $\mathbb{Q}$ を考えてみましょう。これらは立派な距離空間ですが、連続な「道」を引こうとすると、空間がバラバラに千切れているため、点が動かない「定値写像」しか連続になりません。
道生成空間の位相は「道の集まり」によって決まります。もし空間内に定値写像(動かない点)しか存在しない場合、そこから誘導される位相は、すべての部分集合が開集合となってしまう離散位相になってしまいます。
したがって、カントール集合や有理数などの「離散ではないが完全に不連結な空間」は、道生成空間には決してなれません。これにより、「単なる距離空間」というだけでは道生成空間の十分条件にはならないことが分かります。
3. 道生成空間のシンプルな十分条件
以上の構造をふまえ、実用上出会うほとんどの空間が道生成空間であることを保証する「シンプルな十分条件」を3つ挙げます。条件1と2は構成によるもので、条件3は位相的性質によるものです。
十分条件1: 位相多様体 (Topological manifolds)
位相多様体(および可微分多様体)はすべて道生成空間である。
(理由)多様体は局所的にユークリッド空間 $\mathbb{R}^n$ と同相です。$\mathbb{R}^n$ は閉区間 $I$ たちを張り合わせて構成できるため道生成空間です。多様体は $\mathbb{R}^n$ と同相な開集合たちによる被覆を持ち、これは $\mathbb{R}^n$ の直和空間からの商写像と見なせるため、前述の特徴付けにより道生成空間となります。
十分条件2: CW複体 (CW complexes) と単体的複体 (Simplicial complexes)
すべての CW複体 および単体的複体の幾何学的実現は、道生成空間である。
(理由)これらは標準単体 $\Delta^n$ や閉球体 $D^n$ を境界で張り合わせて(商をとって)構成されます。これら基本的なブロックはすべて閉区間 $I$ の連続像であり、道生成空間です。それらの直和空間の商空間であるため、CW複体も道生成空間となります。グラフや多面体などもすべてこれに含まれます。
十分条件3: 第1可算 かつ 局所弧状連結な空間
位相空間 $X$ が 第1可算空間 (first-countable space) かつ 局所弧状連結 (locally path-connected) であるならば、$X$ は道生成空間である。
距離空間のような扱いやすい空間であっても、前述のカントール集合のように「道が引けない」と道生成空間になりません。しかし、「局所的に道が引ける(局所弧状連結)」という条件さえ追加すれば、それは立派な道生成空間になります。以下にその美しい証明を与えます。
$X$ を第1可算かつ局所弧状連結な空間とする。
$A \subset X$ を任意の「道に関して閉じた集合」とする。すなわち、すべての連続な道 $\gamma: I \to X$ に対して、$\gamma^{-1}(A)$ が $I$ において閉集合になると仮定する。このとき、$A$ が $X$ において閉集合であることを示せばよい。
$X$ は第1可算空間であるため、列型空間 (sequential space) である。したがって、$A$ が閉集合であることを示すには、$A$ 内の任意の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x \in X$ に収束するとき、$x \in A$ が成り立つことを示せば十分である。
$x_n \to x$ ($x_n \in A$) とする。$X$ は第1可算かつ局所弧状連結であるため、点 $x$ には可算な基本近傍系が存在し、各近傍を弧状連結にとることができる。すなわち、弧状連結な開集合からなる縮小する局所基底 $V_1 \supset V_2 \supset V_3 \supset \cdots$ をとることができる。
点列 $x_n$ は $x$ に収束するため、部分列をとることで、各 $k \ge 1$ について $x_k \in V_k$ であると仮定してよい。
各 $V_k$ は弧状連結であるから、$x_{k+1} \in V_{k+1} \subset V_k$ と $x_k \in V_k$ を結ぶ連続な道 $\alpha_k: \left[ \frac{1}{k+1}, \frac{1}{k} \right] \to V_k$ が存在する。すなわち $\alpha_k\left(\frac{1}{k}\right) = x_k$, $\alpha_k\left(\frac{1}{k+1}\right) = x_{k+1}$ を満たす。
これらを無限に繋ぎ合わせた写像 $\gamma: I \to X$ を次のように定義する。
$$\gamma(t) = \begin{cases} \alpha_k(t) & \left( t \in \left[ \frac{1}{k+1}, \frac{1}{k} \right], k=1,2,\dots \right) \\ x & (t = 0) \end{cases}$$
この $\gamma$ が $t=0$ で連続であることを示す。$x$ の任意の開近傍 $U$ に対して、ある $N$ が存在して $V_N \subset U$ となる。$0 \le t < \frac{1}{N}$ なる任意の $t$ は、ある $k \ge N$ について区間 $\left[ \frac{1}{k+1}, \frac{1}{k} \right]$ に属するか、$t=0$ である。いずれの場合も $\gamma(t) \in V_k \subset V_N \subset U$ または $\gamma(0) = x \in U$ となるため、$\gamma$ は $t=0$ で連続である。$t>0$ では明らかに連続であるため、$\gamma$ は $I$ から $X$ への連続な道である。
さて、仮定より $\gamma^{-1}(A)$ は $I$ において閉集合である。
構成より、各 $k \ge 1$ について $\gamma\left(\frac{1}{k}\right) = x_k \in A$ であるから、$\frac{1}{k} \in \gamma^{-1}(A)$ である。
閉集合は点列の極限を含むため、$\lim_{k \to \infty} \frac{1}{k} = 0 \in \gamma^{-1}(A)$ でなければならない。
ゆえに $\gamma(0) = x \in A$ となる。これで $A$ が閉集合であることが証明され、$X$ が道生成空間であることが示された。